第51号 2014.11
目 次
- 新会長挨拶
- 第38回総会・研究大会報告
- 第38回総会議事の報告
- 理事会議事録から
- 第39回総会・研究大会について
- 第20期役員について
- 第6回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果
- 個人研究報告と論文の公募のお知らせ
- 会員の動静
- 事務局より
コンテンツ
新会長挨拶
坂本達哉(慶應義塾大学 経済学部教授)
本年4月1日より2年間、第20期の会長を務めることになりました。第19期の会長を務められた只腰親和理事と事務局責任者の柘植尚則理事には、その多大なご貢献にたいして、会員のひとりとして心からのお礼を申し上げます。
日本イギリス哲学会は、私自身が最も長く所属し、最も親しみを感じてきた学会です。入会した頃は学会を創設された先生方が学会を力強く引っ張っておられ、駆け出しの私はこれらの先生方のイギリス哲学研究にかける情熱に圧倒されたものでした。それから30年以上が過ぎ、会員諸氏の学会への思いは少しも変わることなく、学会活動の原動力となっています。それを一言で言えば、スコットラ ンド、アイルランドをふくむイギリスという国が生み出してきた哲学、思想、社会科学への比類ない敬意と愛着ということになりましょう。この敬意と愛着の核心には、イギリス哲学の歴史の通奏低音とも言うべき「人間本性(Human Nature)」への飽くことのない関心と、その人間本性が社会的現実においてとる多様な諸形態への尽きせぬ興味があるように思われます。
会員の多くは、より専門に近い、より規模の大きな学会に所属していますが、それら他学会では、哲学や社会科学の伝統的な区分や規範が暗黙の前提となっているため、イギリス哲学の核心にある「人間本性」への知的・思想的関心を、それ自体としてぶつけ合う機会はなかなか得られません。この貴重な学問体験を本学会では得られるということが、会員諸氏の本学会への愛着の原動力になっているのではないでしょうか。毎年の研究大会の密度の濃さと親密さは規模の大きい諸学会ではめったに見られないものであり、学会誌『イギリス哲学研究』の充実ぶりや、近年の投稿論文数の着実な増加も頼もしい限りです。
他方、現在の日本イギリス哲学会にも問題や課題がないわけではありません。そのひとつに、会員数が400人の壁をなかなか越えられないことがあります。何より、「イギリス」と「哲学」という二重の限定ゆえ、本学会の会員数に一定の限度があることは当然であり、会員数の増大を自己目的にすることは無用です。同時に、上のような本学会の特別の魅力と存在意義を考えれば、これを一人でも多くの関連分野(とくに会員の少ない歴史や文学)の研究者にも享受して欲しいと願う理由もまた存在します。理事会はもちろんですが、会員の皆様の新会員の獲得に向けてのご協力をぜひともお願いしたい所以です。会員数の増加がこうした学問的意義だけでなく、会費収入の増大によって学会活動の 一層の充実のためにも不可欠であることは、言うまでもありません。
もう一つの課題は、長らく指摘されてきた学会の国際化です。急激に進行する学問研究一般のグローバル化、ボーダレス化は、ヨーロッパ中世のラテン語にも比せられる英語という現代随一の国際的コミュニケーション手段の存在によって実現したものです。その英語で書かれた哲学と社会科学の遺産を共通の研究対象とする私たちにとって、この問題は他人事ではあり得ません。具体的には、英語による研究成果のより積極的な発信や、『イギリス哲学研究』における英語論文の増加、学会員による主題別の英語による出版、学会ウェッブサイトの日英両語化などが考えられます。これらはいずれも容易な仕事ではなく、何より、活動内容の充実をともなわない英語による発信は無意味です。2016年は本学会の創設40周年という節目の年に当たりますので、これをよいチャンスと考え、会員の皆様方のご協力を得て、着実な一歩を踏み出せればと希望しているところです。
以上、不慣れの点も多々あろうかとは存じますが、新事務局が置かれている大月短期大学の伊藤誠一郎理事および理事会の先生方のお力添えを得ながら、微力を尽くしたいと思いますので、会員の皆様にはどうぞよろしくお願い申し上げます。
第38回総会・研究大会報告
日本イギリス哲学会第38回総会・研究大会は、2014年3月29日(土)・30日(日)の両日、東洋大学白山キャンパスで開催された。世話人を務められた太子堂正称会員および東洋大学のスタッフの皆様に支えられ、大いに盛況であった(参加者125名)。
1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に寺中平治会員が選出され、選挙管理委員の選出等、各種議事が滞りなく進んだ。また、総会において、第5回日本イギリス哲学会奨励賞の受賞者として、中野安章会員および萬屋博喜会員の2名が選ばれたと発表され、表彰が行われた。そして、総会に続いて、只腰親和会長による講演「方法への関心」が行なわれた。
1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に寺中平治名誉会員が選出され、選挙 結果の報告等、各種議事が滞りなく進んだ。また、総会において、第6回日本イギリス哲学会奨励賞の受賞者として、苅谷千尋会員が選ばれたことが発表され、表彰式が行われた。総会の後は、東洋大学名誉教授、平野耿名誉会員による講演「経験論と新哲学――ロック、ボイル、シドナム」が行なわれた。
1 日目午後には、まず、4人の会員による個人研究報告が4会場に分かれて行われ、充実した報告と活発な議論が行われた。
ついで、シンポジウムI「近代コモンウェルス論の展開――ブリテン・ヨーロッパ・世界」が開催 された。岩井淳・犬塚元両会員を司会として、村松茂美会員、苅谷千尋会員、半澤朝彦氏(明治学院大学・非会員)による報告とそれに続く活発な質疑応答がなされた。時代と対象を異にする提題者がコモンウェルスという、17世紀から20世紀に渡る主題をめぐってそれぞれの立場から討議を行うという、当学会ならではの、内容の濃い学際的なシンポジウムとなった。
2日目午前には、9人の会員による個人研究報告が3会場に分かれて行われた。各世代の研究者による、意欲的な研究成果が報告され、熱心な議論がたたかわされた。
2日目午後には、臨時総会の後、シンポジウムII「マンデヴィル『蜂の寓話』刊行300年」が坂本達哉・大石和欣両会員の司会で行われた。報告者は柘植尚則会員、米田昇平氏(下関市立大学・非会員)、野原慎司会員であった。「利己心」と「利他心」や奢侈の是非等、今日の倫理学や哲学にも通じる論題に関して、報告者と多くの参加者との間で意欲的な意見交換がなされた。
また、1日目の午後6時15分から、東洋大学2号館16階「スカイホール」にて懇親会が開かれ、多くの会員の参加を得て、大いに盛会であった。
第39回総会・研究大会について
第39回総会・研究大会は、2015年3月28日(土)・29日(日)の両日、甲南大学岡本キャンパスにて行われる予定です。同大学には、安西敏三会員が所属され、世話人としてご尽力いただいております。
1日目には、総会、会長講演、シンポジウムI:「イギリスにおけるモラル・フィロソフィーの展開」(司会:大久保正健、犬塚元、報告者:梅田百合香、只腰親和、川名雄一郎)、2日目には、個人研究報告(3会場、8名)、シンポジウムII:「20世紀イギリス倫理学の再評価-直観・情動・言語をめぐって-」(司会:奥田太郎、久米暁、報告者:寺中平治、岡本慎平、佐藤岳詩)が予定されています。
なお、会場、参加申込等の詳しい内容については、2月のプログラム送付の際にご案内いたします。
第6回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果
久米 暁(選考委員長 関西学院大学)
2013年9月21日に慶應義塾大学にて開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会におきまして、下記の論文を第6回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定いたしましたので、ここに報告申し上げます。
苅谷 千尋(かりや・ちひろ)
「エドマンド・バークの帝国論-自由と帝国のジレンマ-」
(『イギリス哲学研究』第36号2013年3月掲載論文)
本委員会では、『イギリス哲学研究』第 36 号掲載論文および一般応募論文の中から、奨励賞の資格要件を満たす4編に関して、(1)論述の説得力、(2)論述方法の堅実さ、(3) 先行研究への目配り、(4)議論の独創性、(5)将来の研究への発展の可能性等について慎重な検討を行い、苅谷会員の上記論文が本年度の受賞作にふさわしいとの結論に達しました。
苅谷会員の論文は、現実的な政策的議論に散りばめられているバークの帝国に関する諸言説からバーク帝国論を再構成し、帝国思想史に正確に位置づけ、バークが、歴史的文脈に合わせて、帝国を「支配と服従」のシステムから「共存」のシステムと捉えなおし、また「栄光」を「帝国の拡張」から「よき統治」に結びなおした上で、本国が帝国を「統治」するだけの「権力」「権威」を欠くとする観点から、帝国と植民地の自由との両立可能性を追求し たことを鮮やかに描く極めて意欲的な論考です。これまで丁寧に研究されることの少なかった演説等のテキストを丹念に読み解くことで初期から晩年に至るまでのバークの知的格闘を追跡するという堅実な手法に基づいていること、また、とかくアメリカ問題・インド問題等と領域別に論じられることの多かったバークの言説を包括的帝国論として浮かび上がらせるという独創的な課題に取り組んだこと、さらに、自由主義という分析視角に囚われてバークを反帝国主義者と理解する先行研究から適切な距離をとっていること、が高く評価され ました。だだし、キータームである「自由」概念についてより詳細な分析が望まれる点、また国際関係思想史におけるバークの位置に関する先行研究への目配りがあれば、さらに厚みのある研究になりえたであろうという点が、委員会において指摘されたことも報告せねばなりません。しかしながら、本論文がバーク帝国論に関する秀逸な論考であることに変わりはなく、また、新しいバーク研究・帝国思想史研究へと今後大きく発展する可能性に満ちた研究であることにも疑いはないことから、苅谷会員の本論文を受賞作とすることに決定いたしました。
個人研究報告と論文の公募のお知らせ
各種の公募は、毎年、以下のように行われます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。なお、『イギリス哲学研究』の論文公募の締め切りが6月30日に変更になっているので、十分にご注意ください。
(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先 各部会担当理事または事務局
*2014-2015年度部会担当理事
関東:只腰 親和、矢嶋 直規
関西:久米 暁、竹澤 祐丈
(B)研究大会個人研究報告
申込締切 9月15日(消印有効)
発表時間 35分、質疑応答15分
レジュメ 1600字以内(題目・氏名・所属を除く)、英語の場合は390ワード以内
申込先 事務局
申込方法 メール(添付ファイル)または郵送
(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 6月10日(消印有効)
申込先 事務局
申込方法 郵送のみ
公募要領・執筆要領については、『イギリス哲学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。
なお、応募論文の審査は以下のように行われています。応募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ依頼しています。よって、応募者名、論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。
採否は査読者の審査結果によりますが、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に連絡いたします。
事務局より
ご挨拶
本年4月より、本学会の事務局が慶應義塾大学より大月短期大学に移りました。今期より事務局担当理事の他、庶務幹事と編集幹事を設け、学会運営に支障がないよう日々の業務に努めておりますので、何卒ご協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
会費納入のお願い
会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は一律6,000円です。なお、今回 の会費請求で2年分(12,000円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、学会役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。さらに、5年分(30,000円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。
学会誌公募論文締め切りの変更
『イギリス哲学研究』の公募論文の締め切りが、次号から6月30日に変更になっておりますので、ご注意ください。(伊藤)