日本イギリス哲学会 / Japanese Society for British Philosophy

第50号 2013.11

目 次

コンテンツ

第37回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第37回総会・研究大会は、2013年3月25日(月)・26日(火)、東北大学片平キャンパスで開催された。世話人を務められた犬塚元会員および東北大学のスタッフの皆様に支えられ、大いに盛況であった(参加者99名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に寺中平治会員が選出され、選挙管理委員の選出等、各種議事が滞りなく進んだ。また、総会において、第5回日本イギリス哲学会奨励賞の受賞者として、中野安章会員および萬屋博喜会員の2名が選ばれたと発表され、表彰が行われた。そして、総会に続いて、只腰親和会長による講演「方法への関心」が行なわれた。

1日目午後には、シンポジウムⅠ「バークリ『三対話』刊行300年」が開催された。伊勢俊彦会員・久米暁会員を司会として、中野安章会員、竹中真也会員、一ノ瀬正樹会員による報告とそれに続く活発な質疑応答がなされた。表題のとおり、バークリの主要著作の一つ『ハイラスとフィロナスの三つの対話』が刊行されて300年になるのを記念して、近年のバークリ研究の動向を踏まえた報告が行われ、質疑応答も熱のこもったものとなった。

2日目午前には、10名の会員による個人研究報告が4会場に分かれて行われた。若手にとどまらず学会をリードする研究者も含めて、意欲的な研究成果が報告された。ホッブズ、ロック、ヒュームから、現代の分析哲学や政治哲学に至るまで、ヴァリエーションの豊かなものとなった。2日目午後には、シンポジウムⅡ「イギリス思想とアメリカ」が岩井淳会員・松井名津会員の司会で行われた。報告者は西村裕美会員、田中秀夫会員、冲永宜司会員であった。以前に行われた、イギリス思想と大陸思想との関係を探るシンポジウムと対をなす内容であり、本学会の持ち味である宗教、啓蒙思想、哲学といった幅広い視点からの密度の濃い報告がなされ、活発な議論が行われた。

また、1日目の午後6時から、レストラン萩にて懇親会が開かれ、研究発表とはまた異なる活発な談義に花が咲いた。


第38回総会・研究大会について

第38回総会・研究大会は、2014年3月29日(土)・30日(日)の両日、東洋大学白山キャンパスにて行われます。同大学には、太子堂正称会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、記念講演、個人研究報告(4会場、4名)、シンポジウムⅠ「近代コモンウェルス論の展開――ブリテン・ヨーロッパ・世界」(司会:岩井淳、犬塚元、報告者:村松茂美、苅谷千尋、半澤朝彦)、2日目には、個人研究報告(3会場、9名)、シンポジウムⅡ「マンデヴィル『蜂の寓話』刊行300年」(司会:坂本達哉、大石和欣、報告者:柘植尚則、米田昇平、野原慎司)が予定されています。

なお、会場、参加申込等の詳しい内容については、2月のプログラム送付の際にご案内いたします。


第5回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

久米 暁(選考委員長)

2012年9月22日、慶應義塾大学にて開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会におきまして、下記の二論文を第5回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定いたしましたので、ここに報告申し上げます。

中野安章(なかの やすあき)
「バークリーにおける「自然の言語」と自然法則の知識」

(三田哲学会『哲学』第129集 2012年3月 掲載論文)

萬屋博喜(よろずや ひろゆき)
「ヒュームの因果論と神学批判」

『思想』(岩波書店)No. 1052 2011年12月 掲載論文)

本委員会では、『イギリス哲学研究』第35号掲載論文および一般応募論文の中から、奨励賞の資格要件を満たす4編に関して、(1)論述の説得力、(2)論述方法の堅実さ、(3)先行研究への目配り、(4)議論の独創性、(5)将来の研究への発展の可能性等について慎重な検討を行い、中野氏と萬屋氏の上記二論文が本年度の受賞作にふさわしいとの結論に達しました。

まず中野氏の論文は、バークリーにとっての自然法則の概念を「自然の言語」説の観点から解釈しつつ、「自然の言語」説の核心を、従来強調されてきた観念の「習慣的結合」の原理にではなく、「予見」による行為制御の側面に置き直して、自然法則の知識を、行為を通じた快の獲得と苦の回避の能力と見なすプラグマティックな知識観をバークリーに読み込む意欲作です。また、神と人間の「協働」や、単なる生存価値に回収されない精神的快との関わりが論じられ、単純な自然主義的プラグマティズムとの差異化も図られており、議論の独創性・論述の説得力において秀でた論文であります。さらに、バークリーのテキストに向き合って解釈を紡ぎだす論述方法の堅実さも高く評価されました。ただし、委員会においては、本論文はバークリーの思想的展開への注意が不充分だとの指摘が為されました。バークリーは、まず『視覚新論』にて、空間知覚における視覚情報を「言語」と見なした後、『原理』においては、著者が指摘するように、自然法則一般を「習慣的結合」へと解体すべく、視覚以外の感覚さえも「記号」と捉え直しましたが、その際バークリーはそれらを「言語」ではなく「記号」と呼び直しており、さらに晩年には、『原理』の「記号」説ではなく、初期の『視覚新論』の「言語」説を再度持ち出しています。こうしたバークリーの思想的展開に目を向け、「言語」と「記号」との異同についてより慎重な検討を加えていれば、本論文はさらなる説得力を得たであろう、との議論が委員会において為されました。

次に萬屋氏の論文は、ヒュームを因果実在論者と見るか因果反実在論者と見るかという、いわゆる「ニュー・ヒューム論争」に関するサーベイを展開した上で、ヒュームの因果論が「原因」「結果」という語の意味理解に関する理論の側面をもっていると論じ、因果的名辞を用いた推論の実践をゲームの実践に準えて、ヒューム因果論を、ゲームへの参加条件と勝利条件とにそれぞれ対応する、因果言明の意味理解の条件と真偽判定の条件とを特定した理論だと解釈してみせる労作です。論文の前半部を構成する「ニュー・ヒューム論争」に関するサーベイは、先行研究への目配りの点で評価されるべきものであり、また後半における著者自身の解釈に関しては、ヒュームの考える因果推論を、規則に従った規範的な実践と捉え直すという独自の着想が見られ、議論の独創性も高く評価されました。ただし、委員会においては、本論文の弱点として、「神学批判」に関する議論が貧弱なゆえにタイトルと本文の内容とにずれが見られる点は措くとしても、前半のサーベイが、著者自身の見地に即した独自な切り口をもたないため、後半で展開される著者自身の解釈との有機的連関を欠き、著者の解釈に説得力を持たせるのに有効に機能していない、との指摘が為されました。また、自説の解釈を、サーベイによって示された二次文献の動向からではなく、ヒュームのテキストそのものから丹念に導き出そうとする姿勢がより明確であれば、さらに優れた論文になったであろう、との議論も為されました。

このように両論文にはそれぞれの弱点があるものの、ともに新しいバークリー像・ヒューム像を描く将来の研究を胚胎する論考であり、またそれぞれの弱点を克服していく力量が両論文において遺憾なく発揮されていることを考慮し、両者の今後の研究についてはその発展を奨励するに値する、と委員会は考えました。また両論文の甲乙はつけ難いと判断し、二論文をともに受賞作にすることといたしました。


個人研究発表と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、毎年、以下の様におこなわれます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
 *2012-2013年度部会担当理事
  関東:一ノ瀬 正樹、山岡 龍一
  関西:久米 暁、竹澤 祐丈

(B)研究大会個人研究発表
申込締切 9月15日(消印有効)
発表時間 35分、質疑応答15分
レジュメ 1600字以内(題目・氏名・所属を除く)、英語の場合は390ワード以内
申込先  事務局
申込方法 メール(添付ファイル)または郵送

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 9月10日(消印有効)
申込方法 郵送のみ

公募要領・執筆要領については、『イギリス哲学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。

なお、応募論文の審査は以下のように行われています。応募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ依頼しています。よって、応募者名、論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。また、編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。採否は査読者の審査結果によりますが、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に連絡いたします。


学会誌公募論文の審査方法の変更について

第154回理事会で、学会誌『イギリス哲学研究』公募論文の審査方法について見直しが行われ、従来の「採用」「不採用」に加えて、「修正のうえ再査読」を設けることが決定されました。新しい審査方法は『イギリス哲学研究』第39号(2016年3月刊行)より適用されます。それに伴い、公募論文の提出期日が前年の9月10日から6月30日に変更になります(受付期間は4月1日から6月30日になります)。そして、7~9月の査読期間を経て、9月下旬の編集委員会・理事会で「修正のうえ再査読」と決定された場合には、10~11月の修正期間ののち、11月下旬~12月上旬の編集委員会・理事会で改めて審議が行われます。公募論文の投稿をお考えの方は、提出期日などの変更にくれぐれもご注意ください。


事務局より

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。なお、2年分(12,000円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、学会役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。さらに、5年分(30,000円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

名簿について

別紙でご案内のとおり、来年1月に新しい会員名簿を刊行する予定です。この機会に、同封の「会員情報変更届」にて、もしくは、事務局宛メールにて、最新の情報をお知らせください。また、事務局からご連絡を差し上げるために、最新のメールアドレスをお知らせいただければ幸いです。ご協力のほど、宜しくお願い申し上げます。