日本イギリス哲学会
学会通信


第45号 2008.11

目 次



新会長挨拶

 
星 野 勉

 第17期の会長を務めることになりました。何卒宜しくお願い申し上げます。
 日本イギリス哲学会が創立30周年記念事業として総力を結集して取り組んだ『イギリス哲学・思想事典』(研究社)が、昨年(2007年)10月に刊行されました。これは、『イギリス哲学・思想事典』と銘打っていますが、イギリスの思想全般についての、哲学、倫理学、美学、宗教学はもとより、歴史学、文学、法学、政治学、経済学、社会学という幅広い分野からの、他に類を見ない充実した内容を誇っています。売れ行きも予想以上で、書評でも高い評価を得ています。それは、多様な学問的背景をもつ研究者からなる学際的・横断的な学会ならでは成し遂げえなかった成果であると言うことができます。田中秀夫15期会長のご挨拶に「小さくともキラリと光る学会」ということばがありますが、学際性とサロン的雰囲気、これは他の学会にはない本学会の最大の利点であり、今後の学会活動においてもこの利点が生かされるべきであると考えます。
 ところで、日本イギリス哲学会の今後の課題の一つに、国際化を挙げないわけにいきません。しかし、これまでともすれば、国際化は、日本のイギリス哲学の研究水準を国際水準にまでどのようにして高めるかという、受容・受信の文脈で受け止められてきました。つまり、本場イギリスの研究にひたすら追いつけ、というものです。そして、そのような発想法自体に、非英語圏でイギリス哲学を研究することに付きまとう、ある種のコンプレックスが示されていると思われます。しかし、一ノ瀬正樹理事が『イギリス哲学研究』第31号編集後記で述べられているように、英語を母語としない非英語圏でイギリス哲学を研究する私たちは、「英語しか理解できない人に対して、一層広い文化的眺望をもてる点で、優位に立てるかもしれない」とも言うことができるのです。ここに、国際化を、たんなる受容・受信という観点からではなく、発信という観点から捉え直す重要なヒントが隠されていると思われます。いずれにしましても、今後ますます、研究成果の英語での発信、イギリスを含む外国の研究者との国際的な学術交流などが求められますが、そうしたなかで、真の国際化に向けて学会として具体的に何ができるか、という課題に真剣に向き合う必要があると考えます。
 日本イギリス哲学会事務局は、2008年4月から2010年3月まで、法政大学文学部哲学研究室に置かれます。中釜浩一理事が事務局全般の業務を担当し、それを木島泰三幹事が補佐するという体制です。大学を取り巻く環境が大きく変化するなか、ますます煩雑化する学内業務に追われて、行き届かない点もあろうかとは存じますが、日本イギリス哲学会の一層の発展と円滑な運営に向けて、力を尽くす所存でおります。会員の皆様のご理解とご協力を切にお願い申し上げます。




第32回総会・研究大会報告

 
 日本イギリス哲学会第32回総会・研究大会は、2008年3月27日(木)・28日(金)の両日、帝京大学八王子キャンパスにおいて開催された。世話人を務められた沖永宜司会員はじめ帝京大学の方々のご尽力によって、今年度の大会もきわめて盛況であった。
 第一日目午前中の総会では、会長の挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に村松茂美会員が選出され、理事および事務局の改選をはじめとする議事が滞りなく進み、総会は無事終了した。次いで春日喬氏による、「自己存在意識の発生と崩壊―共存のための理論を求めて―」と題された記念講演が行なわれた。
 第一日目の午後は、シンポジウムI「イングランド−スコットランド合同のインパクト―合同300周年記念―」がおこなわれた。田中秀夫、松園伸の両会員の司会のもと、富田理恵、篠原久、犬塚元の会員が報告をされた。特定質問者は、村松茂美会員が務められた。本学会にふさわしいタイムリーなトピックで、活発な議論が展開された。
 二日目午前中は、12人の会員による個人研究報告が3会場に分かれておこなわれた。時代的にも分野的にも幅広い、意欲的な報告がなされたが、特に外国人留学生会員による英語での報告が行なわれたことは、当会の国際化へ向けた第一歩とも見なしうるだろう。
 午後にはシンポジウムII「言語行為論の再検討」がおこなわれた。一ノ瀬正樹、成田和信会員による司会の下、森達也、伊勢俊彦、山田友幸の3会員が報告を行い、フロアー側からの発言も含め、興味ある刺激的な議論が展開され、大会は成功裡に幕を閉じた。
 また、第一日目の午後6時から、蔦友館2階食堂にて懇親会が開かれ、学会報告とはまた趣を異にする活発な談義が花開いた。




「日本イギリス哲学会奨励賞」規程について

 
第32回総会で創設が決定された「日本イギリス哲学会奨励賞」規程を掲載します。

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日本イギリス哲学会奨励賞規程


1.目的および名称
 日本イギリス哲学会は、本学会若手研究者のイギリス哲学に関する優れた研究業績を顕彰し、さらなる研究を奨励するために、「日本イギリス哲学会奨励賞」(略称「学会奨励賞」)を設ける。

2.受賞資格者および対象
2−1.受賞資格者は、応募論文刊行時において満40歳以下の本学会会員とする。
2−2.対象は、前年度(前年4月1日〜当年3月31日)に刊行された単著の論文とする。著書は対象としない。

3.応募方法
3−1.会員の推薦により、応募するものとする。自薦他薦を問わない。
3−2.応募論文(抜刷またはコピー6部)を、所定の書式による推薦理由書を添えて、期日(6月15日必着)までに学会事務局に郵送する。
3−3.『イギリス哲学研究』に掲載された前条【2】を満たす公募論文は、自動的に(前項【3−2】の手続きを経ることなく)選考対象とされる。

4.選考方法
4−1.本賞を選考するために、理事会は、理事から選考委員長1名、理事を含む会員から選考委員4名を選び、計5名からなる選考委員会を設ける。
4−2.選考委員長および選考委員の任期は1年とする。再任を妨げないが、連続して2年を超えることはないものとする。
4−3.選考委員長のもとで選考委員会が期日(10月31日)までに選考を行い、理事会に選考結果を報告する。理事会は、選考結果の報告をうけ、受賞作を決定する。受賞作は原則1編とする。

5.賞の授与および公表
総会において、選考委員長が選考結果の報告をした後、会長が受賞者に賞状と副賞(賞金)を授与する。
本人からの公表辞退の申し出がないかぎり、これを「学会通信」、学会ホームページなどを通じて公表する。

6.附則
6−1.本規程は、2008年4月1日から施行する。
6−2.本規程の改正は、理事会の議を経て、総会の承認を得るものとする。




日本学術振興会への要望書提出について

 第133回理事会において田中秀夫理事より、日本学術振興会の出版助成が、特に文科系に厳しい形で縮小・廃止されようとしているので、その再考を求めて、本学会が緊急アピールを出すことが提案されました。その後第134回理事会にて審議が図られ、日本学術振興会研究部長宛に下記の要望書が提出されました。以下、要望書本文の全文を再録しておきます。

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平成20年 7月28日


独立行政法人 日本学術振興会
研究部長 渡邊淳平殿

日本イギリス哲学会
会長 星野 勉

科学研究費補助金研究成果公開促進費「学術図書」に関する要望書


 貴振興会管轄の科学研究費補助金研究成果公開促進費が、昨年から今年と連続して、大幅に削減されました。この補助金は、人文社会科学を専攻する研究者にとっては、非常に力強い大きな支えとなってきました。とりわけ、初めてのまとまった研究成果を社会に問おうとする若手研究者のモノグラフに対して、この研究成果公開促進費が果たしてきた支援の役割は非常に大きなものがありました。
 優れた研究書を商業ベースで出版することはまことに困難であります。いずれかの出版助成を得ることなしには、特に無名の若手研究者が意欲作を刊行することはほとんど不可能に近いことであります。これまで長く貴振興会が果たされてきた支援事業は、きわめて重要でした。
 現状維持でもなかなか厳しいものがありますが、今後、これ以上の補助金の削減はなされないように切にお願い申しあげたいと思います。そして可能な限り、制度を充実していただき、採択率と金額を充実してほしいと希望します。人文社会科学はいったん衰退すると容易に復活しません。人文社会科学も人類の英知を継承し、現在から将来にかけて、より優れた学問成果を実現することによって、よりよき日本の社会と文化の形成、そしてまた人類の繁栄に寄与しうると考えます。そのような課題は人文社会科学の場合、研究成果の公開への支援なしには実現困難であります。
 わたしたちの学会は、英国の人文社会科学の研究に携わる研究者が形成している400人規模の全国学会でありますが、これまで研究成果公開促進費を受けて研究成果を刊行した会員も多数おります。この制度の維持充実がきわめて重要であることを、学会として確認いたしました。そういう次第で、この要望書を提出させていただきます。



永井文庫展示会・講演会への協賛について

 名古屋大学付属図書館主催の永井義雄文庫展示会にイギリス哲学会が協賛しました。展示会は10月6日より10月26日まで名古屋大学で開催され、18日には土方直史氏、柳田芳伸氏、永井義雄氏を講師とする講演会が行われました。




個人研究発表と論文の公募

各種の公募は、毎年、以下の様におこなわれます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。但し、事情により変更の場合もありますので、直前にご確認ください。

(A)各部会研究例会報告

申込締切 各部会研究例会の2ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
 *2008-2009年度部会担当理事
  関東:岩井 淳、成田 和信
  関西:伊勢 俊彦、桜井 徹
  九州:岩岡 中正、関口 正司


(B)研究大会個人研究発表

申込締切 9月15日(消印有効)
発表時間 40分、質疑応答15分
レジュメ 1600字以内、英語の場合は390ワード以内
申込先  事務局

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文

申込締切 9月10日(消印有効)
申込方法 邦文の場合は完成原稿(400字詰め原稿用紙40〜50枚相当)、英文の場合は完成原稿(5,900〜7,300 ワード)と、英文アブストラクト(別紙に100語以内)を事務局に送付 ※

※ 応募論文原稿は、原則としてワープロ・ソフトで作成し、印刷されたものを3部提出してください。そのうちの1部には投稿者名を記載し、残りの2部については投稿者名を記載せず、本文や註に投稿者名が判明するような表現も削除してください。なお、投稿論文は返却いたしませんので、あらかじめご了承ください。また、審査の結果、掲載が決定した論文については、追って、フロッピー・ディスクでの入稿を求めますので、電子ファイルの保存をお願いいたします。

 応募論文の審査は以下のように行われています。応募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ依頼しています。よって、応募者名、論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。
 また編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。採否は査読者の審査結果によりますが、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に連絡いたします。





事務局より

会費納入のお願い

 会費未納の方は、1月末までに振り込みをお願いいたします。会費は一律6,000円です。
 なお今回の会費請求で、2年間未納の方については、学会誌の送付を停止いたします。さらに5年間滞納の場合は、自然退会となりますので御注意ください。

編集後記

 本年4月から事務局が変わり、「学会通信」の編集も担当することになった。これまで(気楽な?)一般会員だったころは、他学会の一般的なニューズペーパーにくらべて、本学会のかなり厚手の「通信」に感心しはしたが、正直に言えば、特に注意して読むことも少なかった。今回自分が編集する側にまわって、過去の「通信」を読み返してみて、あらためてその充実ぶりに驚くと共に、これまでの事務局のご苦労がようやく理解できたところである。正確な情報を記載するというごく当然のことのためにも、何度も何度も資料を確認する必要があり、相当の手間がかかる、ということすら、うかつにも思い浮かばず、発行が例年より多少遅めになってしまったことを、会員の皆様にお詫び申し上げたい。本号がこれまでの号に比べて特段に見劣りしてはいないことを、祈るばかりである。
 さて、すでにご承知の通り、 本年度より「イギリス哲学会奨励賞」が設けられた(規定が本号に再録されている)。第一回は現在選考委員会で選考中であり、受賞者は次回大会において発表されることになるが、今後この賞が若手研究者の刺激となり、イギリス哲学研究のますますの発展に寄与することを、事務局としても願うものである。応募の規定等を是非もう一度ご確認いただき、次回はさらに多くの方々に応募していただければ幸いである。
 また本号には、前回大会で承認された、学術振興会への学会からの要望書の全文が収録されている。本学会のような基礎研究に対する公的助成がますます厳しさをます状況で、学会としての姿勢を示したものである。どうかご一読をお願いしたい。

学会通信 No. 45
2009年10月発行




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